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最高裁判所大法廷 昭和29年(オ)132号 判決

主文

本上告論旨は理由がない。

理由

論旨は、本件未墾地買収計画は、上告人がその事業目的のために所有する唯一の土地の所有権を奪い、上告人の営業を廃止するの止むなきに立ちいたらせるものであるから、憲法第二二条に違反するというのである。

憲法二二条の営業の自由の保障は、無制限なものではなく、公共の福祉に反しない限りにおいて保障されているのである。従つて、公共の福祉のために制定された法律もしくはこれに基く行政処分によつて、営業遂行の自由が直接もしくは間接に妨げられることがあつたとしても、これをもつて、同条の違反ということはできない。自作農創設特別措置法は、自作農を急速かつ広汎に創設することによつて農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図るという公共の福祉のための必要に基き制定されたものであり、本件未墾地買収計画は、右法律に基きなされた行政処分であつて、これがために仮に、事実上上告人の現在の営業に支障を来たすことがあつたとしても、憲法二二条に違反するものといい得ないことは明らかである。それ故、所論は採用することができない。

よつて、裁判官斉藤悠輔の補足意見あるほか裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官斉藤悠輔の本上告理由に対する補足意見は、次のとおりである。

論旨は、原判決は、憲法二二条一項の解釈を誤つているというのである。しかし、原判決の是認、引用する第一審判決は、同法条項違反との非難が本件の場合当らない理由として、結局原告(控訴人、上告人)は、その目的たる事業を継続することをかつて一度も禁止されたこともなければ将来と雖も恐らく禁止されることはない旨判示しているのであつて、その判示は、原告の事業目的並びに本件買収計画の内容に関する原告の主張自体に照し肯認することができるのである。されば、所論は、原判決の判示に副わない判断を前提とするものであつて、上告適法の理由と認め難い。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一)

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